六十点で、まず出してみる

六十点で、まず出してみる コラム

六十点で、まず出してみる

準備が整うまで待つ癖が、僕にはずっとあった。

資料でも、文章でも、誰かへの連絡でも、もう少し整えてからと先延ばしにする。

けれど振り返ると、待っていた時間の多くは、中身を良くするためには使われていなかった。

ただ不安を先送りにしていただけだった気がする。

完成度を上げる作業には、実は限界の点がある。

八十点から九十点に上げるのに、六十点まで作る倍くらいの時間がかかることも珍しくない。

時間もお金も有限だと考えると、その差は小さくない投資だと思う。

相手に見せて初めて分かること

一人で整え続けていると、直す場所が自分の想像の中にしかない。

でも、途中のものを誰かに見せると、思いもしなかった指摘が返ってくる。

こだわっていた部分は気にされず、気にも留めなかった部分が引っかかる。

その答え合わせは、一人で考え込んでいる時間よりずっと情報量が多い。

だから僕は、六十点くらいの出来で一度外に出してみるやり方を試している。

恥ずかしさはあるけれど、その恥ずかしさは後から見るとだいたい小さい。

失敗しても、取り返しがつく範囲に収めておけばいい。

出す前に、取り返せる範囲を決める

とはいえ、何でも雑に出せばいいという話ではないと思う。

大事なのは、出す前に「ここまでなら失敗してもいい」という範囲を決めておくことだ。

たとえば、期限が先の仕事なら下書きの段階で見てもらう。

お金がかかる買い物なら、まず一番小さい単位で試す。

人に関わることなら、相手の負担にならない軽い形から始める。

こうして範囲を決めておけば、六十点で出すことは無謀ではなく、ひとつの設計になる。

僕はその区別を意識するだけで、気持ちがかなり軽くなった。

直す時間を、予定に入れておく

出して終わりにしないために、見直しの時間を先に予定へ入れておく。

一度出したものは、反応を見てから直せばいい。

最初から完璧を目指すより、直す前提で動くほうが、結果的に早く形になる。

しかも反応を見ながら直すので、無駄な作業も減る。

自分の頭の中だけで作った九十点より、相手の反応を受けて育てた八十点のほうが役に立つ場面は多い。

そう考えると、準備を待つ時間がもったいなく思えてくる。

今日の小さな一歩

今日、止まっているものが何かひとつあるなら、六十点の状態で一度見せてみるのも悪くない。

送信ボタンを押す前の一呼吸は、たぶん思っているほど重要ではない。

押したあとに、世界が大きく変わることもあまりない。

変わるのは、止まっていたものが動き出すという、ささやかな一点だけだと思う。

その小さな動きが、次の八十点につながっていく気がする。

急がなくていいけれど、待ちすぎないくらいの距離感が、僕にはちょうどいい。

――一ノ瀬 雅

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