やることリストは、たぶん誰でも一度は作ったことがあると思う。
僕も手帳やスマホのメモに、思いつくたびに書き足してきた。
ただ、ある時期から、それとは別のリストを一つだけ持つようにしている。
「やらないこと」を書いたリストだ。
今日はその話を少しだけしてみたい。
やることを増やすほど、一日は薄くなる
やることリストには、困った性質がある。
書き足すのは簡単なのに、消すきっかけがほとんどないことだ。
新しい習慣、気になる勉強、誘われた用事。
どれも一つずつ見れば、悪くない選択に見える。
でも一日は二十四時間のままで、増えるのはリストの行数だけだ。
結果として、全部に少しずつ手をつけて、どれも中途半端に終わる日が増えていく。
僕はそれを「一日が薄くなる」と呼んでいる。
予定は詰まっているのに、夜になって振り返ると何も残っていない感じだ。
これは怠けているからではなく、足し算しかしていないから起きることなんだと思う。
だから引き算の側にも、ちゃんと置き場所を作ってあげる必要がある気がする。
やらないことは、決めておかないと毎回迷う
やらないことを、わざわざ書く意味があるのかと聞かれたことがある。
やらないなら、ただやらなければいいだけだ、と。
理屈としてはその通りだと思う。
ただ実際には、やらないと決めていないことは、目の前に来るたびに「どうしようか」と考えることになる。
夜にだらだら動画を見続けるかどうか。
気の進まない飲み会に顔を出すかどうか。
セールの通知を開くかどうか。
一回ずつの判断は小さくても、それが毎日何十回も積み重なると、思っている以上に頭の体力を使う。
先に「これはやらない」と決めてあれば、その場で迷う時間はほとんどゼロになる。
判断を前払いしておくようなものだ。
時間で見ても、気力で見ても、このほうが安く済むと僕は考えている。
もう一つ、決めておくことの良さは、断るときの言い訳がいらなくなることだ。
その場で理由を考えて断ろうとすると、どうしても歯切れが悪くなる。
相手にも気を遣わせるし、自分も後から「あの言い方でよかったか」と引きずってしまう。
でも自分の中で前から決めていることなら、「それはやらないことにしているんだ」と短く伝えるだけで済む。
不思議なもので、相手もそれ以上は深く聞いてこないことが多い。
個人的なルールとして伝えると、相手を否定しているようには聞こえにくいのかもしれない。
僕のリストに書いてあること
参考までに、僕のリストに今あるものをいくつか挙げてみる。
一つ目は、寝る前の三十分にスマホでニュースを追わないこと。
知ったところで夜のうちにできることはほとんどなく、眠りが浅くなるだけだと気づいたからだ。
二つ目は、その場で即答を求められた買い物の誘いには乗らないこと。
「今だけ」と急かされる話ほど、一晩置くと熱が冷めることが多い。
三つ目は、愚痴を言うためだけの集まりには行かないこと。
話を聞くのが嫌なわけではないけれど、帰り道にいつも少し疲れている自分がいた。
四つ目は、自分が詳しくない分野で、人の選択に口を出さないこと。
これは時間の節約というより、余計な摩擦を生まないためのものだ。
どれも大した内容ではない。
でも書いておくだけで、迷う回数ははっきり減った。
リストは短く、ときどき書き換える
やらないことリストを作るときに、僕が気をつけていることが二つある。
一つは、短くしておくことだ。
あれもこれも禁止にすると、今度はリストを守ること自体が負担になってしまう。
僕の場合は、五つ前後くらいがちょうどいい気がしている。
もう一つは、ときどき見直すことだ。
生活が変われば、やらなくていいことも変わる。
以前はやらないと決めていたことが、今の自分にはむしろ必要になっている場合もある。
たとえば僕は昔、休日に予定を入れないことをリストに入れていた。
疲れていた時期にはそれが合っていたけれど、余裕が戻ってからは、少しくらい外に出たほうが調子がいいと分かってきた。
なのでその項目は、静かにリストから外した。
守ることより、今の自分に合っているかどうかを確かめることのほうが大事なんだと思う。
月に一度、手帳の最後のページを開いて眺めるくらいでも十分だと思う。
引き算で、空いた場所に何を置くか
やらないことを決めると、当然ながら時間と気力に少し余白ができる。
ここで大事なのは、その余白をすぐに別の「やること」で埋めないことかもしれない。
せっかく空けた場所に、また何かを詰め込んでしまったら、結局もとの薄い一日に戻ってしまう。
僕はその余白を、すでにやっていることを少し丁寧にする時間に回すようにしている。
読んでいる本を一章多く読むとか、料理を一品だけ増やすとか、その程度のことだ。
新しく何かを始めるより、今あるものの密度を上げるほうが、満足感は大きい気がする。
あるいは、何もしない時間としてそのまま残しておくのも一つの手だ。
窓の外をぼんやり眺める十分間は、生産性で測れば何も生んでいないように見える。
けれど、そういう時間があるからこそ、次にやることへ気持ちよく向かえる日もある。
余白は、使わないことで価値を持つ場合もあるのだと思う。
お金で言えば、手元に少し現金を残しておくような感覚に近い。
全部を使い切らないことで、急な用事や、本当に大事な誘いが来たときにすぐ動ける。
時間も同じで、少しだけ空けておくことが、結果的に一番効率のいい使い方になることがある。
やらないことを決めるのは、何かを我慢するためではない。
自分にとって価値のあることに、ちゃんと時間を使うための準備なんだと思う。
もし今、毎日がなんとなく慌ただしいと感じているなら、やることを一つ足す前に、やらないことを一つだけ書いてみるのも悪くないかもしれない。
紙の端でも、スマホのメモでもいい。
一行書くだけで、明日の迷いが一つ減るなら、それは十分に元が取れる取引だと僕は思う。
――一ノ瀬 雅


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