人に任せたことは、最後まで任せてみる

人に任せたことは、最後まで任せてみる コラム

人に何かを任せたあとで、つい口を出したくなることがある。

進み具合を聞いて、やり方に意見を足して、気づけば自分でやったほうが早かったと思う。

僕も以前は、そういう任せ方をしていた。

今は、任せたことはなるべく最後まで任せてみるようにしている。

優しさの話というより、時間と手間の計算をしたら、そのほうが合っていた気がするからだ。

口を出すたびに、任せた意味が減っていく

任せるというのは、本来は自分の時間を空けるための選択だと思う。

ところが途中で何度も確認を入れると、その時間はほとんど戻ってこない。

相手の進め方を追いかけて、細かい修正を伝えて、その返事を待つ。

これを繰り返すと、自分で手を動かしたときと同じくらい、頭の容量を使っていることになる。

しかも相手からすると、自分のやり方を途中で何度も上書きされる形になる。

そうなると、次からは指示を待つほうが楽だと感じるようになるのも、自然なことだと思う。

結果として、任せられる人が育たず、いつまでも自分が抱えることになる。

口を出すたびに、任せたこと自体の価値が少しずつ削れていく。

僕はそこに気づいてから、確認の回数を意識して減らすようになった。

確認の回数を、先に決めておく

確認をゼロにするのは、現実的ではないと思う。

任せた側にも責任はあるし、途中で大きくずれていたら早めに知りたい。

そこで僕は、確認する回数とタイミングを最初に決めてしまうことにした。

たとえば一週間かかる仕事なら、真ん中で一回だけ様子を聞く、というように。

回数が決まっていれば、それ以外の時間は気にしなくていいと自分に言い聞かせられる。

相手にとっても、いつ聞かれるかが分かっているほうが、落ち着いて進められるはずだ。

不意に飛んでくる確認は、内容が同じでも、受け取る側の集中を切ってしまう。

予定された確認なら、相手はそこに向けて準備ができる。

同じ一回の確認でも、置く場所を決めておくだけで、お互いの負担はずいぶん変わる気がする。

任せる前に、決めておくことは三つだけ

最後まで任せるといっても、何も言わずに放っておくわけではない。

むしろ、最初に伝えることを丁寧にしておくほうが大事だと思っている。

僕が先に決めておくのは、だいたい三つだ。

一つ目は、何ができていれば完成とするのか、という基準。

二つ目は、いつまでに必要なのか、という期限。

三つ目は、困ったときにどこで声をかけてほしいか、という相談の窓口。

この三つが共有できていれば、途中のやり方はほとんど相手に預けてしまっていい。

逆に言えば、途中で口を出したくなるのは、最初にこのどれかが曖昧だったときが多い。

不安になって確認したくなる気持ちの正体は、たいてい自分の説明不足にある気がする。

だから任せる前の五分を、少し長めに取るようにしている。

その五分で、後から使うはずだった何十分かが浮くなら、悪くない取引だと思う。

自分と違うやり方を、すぐに間違いと決めない

任せたあとに引っかかるのは、相手のやり方が自分と違うときだ。

順番が違う、道具が違う、言葉の選び方が違う。

そういうものを見ると、つい直したくなる。

でも冷静に考えると、違うやり方でも結果が基準を満たしているなら、それで十分なはずだ。

僕のやり方は、僕にとって慣れているだけで、誰にとっても一番いいとは限らない。

実際、任せた相手のほうが手際がよかったり、僕が思いつかなかった工夫をしていたりすることもある。

そこで口を出してしまうと、その発見ごと消してしまうことになる。

違うやり方を見たときは、間違いかどうかではなく、基準に届くかどうかだけで判断する。

そう決めておくと、余計な口出しはかなり減った。

自分の好みと、守るべき基準を分けて考えるのは、慣れるまで少し難しい。

それでも、分けられるようになると、人に頼むこと自体がずいぶん楽になる気がする。

結果が少し物足りなくても、まず受け取る

最後まで任せた結果が、自分の想像より少し物足りないこともある。

そういうときでも、僕はまず一度そのまま受け取るようにしている。

すぐに自分の手で作り直してしまうと、相手にとっては任されたのに取り上げられた経験になる。

それよりも、どこが基準に届いていなかったのかを短く伝えて、次に活かしてもらうほうがいい。

一回目の完成度より、二回目、三回目と任せられる回数のほうが、長い目で見れば大きな意味を持つと思う。

もちろん、期限が迫っていて手直しが必要な場面もある。

その場合も、黙って直すのではなく、直した理由を一言だけ添えておく。

それだけで、相手は次に何を気をつければいいのかが分かる。

受け取り方ひとつで、任せた相手との関係は、少しずつ信頼の方向に動いていく。

僕はその変化が、手間をかけて直す以上に価値のあるものだと感じている。

任せる力は、自分の時間を守る力でもある

一人でできることには、どうしても限りがある。

時間も体力も有限で、全部を自分で抱えていたら、本当にやりたいことに回す余白がなくなる。

だから任せる力は、結局のところ自分の時間を守る力なのだと思う。

任せるのが上手な人は、仕事を押しつけているわけではない。

基準と期限と相談の窓口をはっきりさせて、あとは相手を信じて待っている。

その待つ時間に、自分にしかできないことを進めている。

僕もまだ、ときどき口を出したくなる。

そういうときは、これは基準の話なのか、自分の好みの話なのかを一度だけ考えるようにしている。

好みの話だと分かったら、言いかけた言葉をそっと飲み込む。

それだけで、任せた相手も自分も、少しだけ楽になる。

次に誰かに何かを頼むとき、最初の五分を丁寧にして、あとは最後まで任せてみるのも悪くないと思う。

思っていたより、ちゃんと返ってくることが多い気がする。

――一ノ瀬 雅

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