百円の差を比べるのに、二十分かけてしまうことがある。
洗剤でも、充電ケーブルでも、ランチの店でもいい。
安いものほど、なぜか迷う時間が長くなる気がする。
今日は、その迷い方について少し考えてみたい。
迷う時間にも、値段はついている
僕は、時間をお金と同じくらい大事な資源だと思っている。
だから、何かを比べているときは、比べている時間そのものにも値段をつけてみる。
たとえば、千円の買い物で五十円安い方を探すのに、十五分かかったとする。
十五分で五十円なら、時給にすると二百円だ。
そう考えると、その十五分は少しもったいない使い方だった気がしてくる。
もちろん、比べること自体が楽しいなら話は別だ。
趣味として比べているなら、それは娯楽の時間で、損をしているわけではない。
ただ、楽しくもないのに惰性で比べ続けているなら、一度立ち止まってみてもいいと思う。
迷っている間は、何も得ていないことが多いからだ。
安いものほど迷いやすい理由
不思議なのは、高い買い物より安い買い物の方が、迷う時間が長くなりやすいことだ。
家電や家具なら、比べる価値があるので、迷うのは自然なことだと思う。
けれど、数百円のものを延々と比べてしまうのは、少し理由が違う気がする。
安いものは、失敗しても痛くない。
痛くないからこそ、決める基準がぼんやりしたままになる。
基準がないと、選択肢を見るたびに「こっちもいいかも」と思えてしまう。
結果として、決め手がないまま時間だけが過ぎていく。
選択肢が多すぎると、人はかえって選べなくなるという話もある。
安いものの売り場ほど種類が多いのも、迷いやすさに拍車をかけているのかもしれない。
先に「迷っていい上限」を決めておく
そこで僕が良いと思っているのが、金額ごとに迷っていい時間の上限を決めておくことだ。
たとえば、千円以下のものは三分まで。
一万円以下なら、一晩置いてみる。
それ以上なら、何日かかけて比べてもいい。
こういう目安が一つあるだけで、迷い方がずいぶん変わる気がする。
三分で決まらなかったら、そのとき一番よさそうなものを選ぶ。
あるいは、今は買わないと決めてその場を離れる。
どちらを選んでも、ずるずると迷い続けるよりはずっと身軽になれる。
大事なのは、上限を守ることそのものより、自分がどれくらい迷っているかに気づけることだと思う。
気づければ、止まることもできる。
「いつもの」を持つと、迷う回数が減る
もう一つ効くのが、よく買うものについて「いつもの」を決めておくことだ。
シャンプーはこれ、靴下はこのメーカー、コンビニのコーヒーはこのサイズ。
一度決めてしまえば、次からは比べる必要がなくなる。
毎回ベストを探すより、八十点のものを繰り返し選ぶ方が、トータルでは得をしやすい気がする。
浮いた時間と気力は、本当に比べる価値のある買い物に回せばいい。
人が一日に下せる判断の量には、限りがあるとよく言われる。
小さな判断を減らしておくと、大事な場面で頭がすっきりしているのを感じやすくなる。
「いつもの」は、手抜きではなく、判断力を温存するための仕組みだと思う。
もちろん、ときどき見直すのは悪くない。
半年に一度くらい、「いつもの」が今の自分に合っているかを確かめてみるのも良いかもしれない。
迷わない人は、何を見ているのか
買い物が早い人を見ていると、選んでいるというより、捨てているように見えることがある。
条件に合わないものを、ためらわずに候補から外していく。
残ったものの中から選ぶので、迷う余地がそもそも少ない。
その人たちが見ているのは、どれが一番いいかではなく、自分に必要な条件を満たしているかどうかなのだと思う。
条件さえ満たしていれば、細かな差は気にしない。
この割り切りは、時間の使い方としてとても合理的だ。
完璧な一つを探すより、十分な一つを早く見つける。
僕も、そういう選び方を少しずつ身につけていきたいと思っている。
買ったあとに、もう一度比べない
迷う時間は、買う前だけにあるわけではない。
買ったあとに、別の店でもっと安く売られているのを見つけてしまうことがある。
そのとき、しばらく損をした気分を引きずってしまう人は多いと思う。
けれど、すでに払ったお金は戻ってこない。
そこで気分を落とすと、お金に加えて、その後の時間まで失うことになる。
僕は、決めたあとは比べないと先に決めておくのがいいと思っている。
三分で選んだなら、三分で選んだなりの結果として受け入れる。
多少の差は、迷う時間を買わなかったことへの手数料だと考えれば、それほど悪い取引でもない気がする。
実際、数十円や数百円の差は、一か月もすれば思い出せなくなることがほとんどだ。
覚えていないことのために、今の気分を削るのはもったいない。
それよりも、選んだものをきちんと使い切ることに意識を向けた方が、満足度は高くなりやすいと思う。
同じ値段のものでも、使い倒せばそれだけ一回あたりの価値は上がっていく。
比べるのは買う前の数分だけにして、買ったあとは使う時間に切り替える。
この切り替えができると、買い物そのものがずっと軽くなる気がする。
迷いを後悔に変えないことも、時間を守る方法の一つなのだと思う。
迷う時間を、楽しい時間に回す
迷う時間を短くすると、思っていた以上に一日に余白が生まれる。
その余白で本を読んでもいいし、ただ散歩をしてもいい。
あるいは、本当に欲しいものについて、じっくり時間をかけて調べてもいい。
迷うこと自体が悪いわけではない。
迷う価値のあるものに、迷う時間をちゃんと使えているかどうかが大事なのだと思う。
百円の差に二十分を使うより、その二十分を自分が楽しいと思えることに使う。
そういう配分を意識するだけで、毎日の満足度は少し上がる気がする。
今日、何かを買うときに迷ったら、一度だけ時計を見てみるのも悪くないと思う。
――一ノ瀬 雅


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